ツチアケビ
秋、真っ赤な実が幾つもぶら下がっているツチアケビに出会った人は、誰でも思わず足が止まってしまいます。土の中から出てアケビのようだと「ツチアケビ」の名が付いています。「キツネノトウガラシ」「山の神の錫杖(シャクジョウ)」の名もあります。
実は、肉質で長さ6~10センチメートル。熟しても裂けません。一つの実に一万数千個の種が入っています。ラン科としては大きな種で翼があります。普通、実が熟すと裂け、ほこりのように微細な種が数十万個入っているランの仲間では異例です。
葉緑素をもたないので、光合成をして自分で養分をつくることができません。菌類からすべての養分を得て生活する腐生植物です。
地中の根茎は太くて長く横に伸びていて、根の中にナラタケの菌糸束をとりこんでいます。抜いてきても種をまいても育てることはできません。珍しくてもそっと見るだけにしてください。
茎は高さ30~100センチメートル。太くて硬く、上部で枝を分けます。6~7月、黄褐色の花を多数つけます。花の直径は2センチメートルほどで半開します。
ほぼ日本全土に分布する多年草です。主に落葉樹林にやや稀に生えます。熊野では稀で、3ヵ所見ていますが、1ヵ所は整備のため今はありません。写真は、新宮の山で撮ったものです。
【写真・文】
緑花文化士 冨沢由美子